障害者世界柔道に出場…難病で視力低下の北薗さん
「ロンドン」目指し全力で
視覚障害を持つ兵庫県神戸市北区の京都産業大1年北薗新光(あらみつ)さん(20)が、4月にトルコで開かれる障害者柔道の世界大会に出場する。
昨年、難病の網膜色素変性症と診断されて、競技続行をあきらめかけたが、「やれることを全力でやる」と奮起し、世界大会の切符を勝ち取った。
柔道との出会いは、5歳の時。アトランタ五輪で谷亮子さんが、大柄の外国人選手を鮮やかな技を投げ飛ばす姿をテレビで見て、夢中になった。「谷選手みたいになりたい」と近くの道場で練習に励み、中学で黒帯を取った。
地元の高校に進学したが、「もっと強く」との思いから1年の時、強豪の育英高校(神戸市長田区)に編入。シドニー五輪銀メダリスト篠原信一さんを育てた有井克己監督(48)の指導を仰ぎ、正選手を目指して柔道漬けの毎日を送った。
体の異変には、高校に入った頃から薄々気付いていた。何でもない場所で転ぶことが増え、試合でも開始線が見えず戸惑うことも。卒業後、4000人に1人とされる難病の網膜色素変性症と診断された。視力は両目とも0・02で、視野はほとんど失われていた。
「視覚障害者」と扱われることに最初は抵抗があった。「オレはみんなと同じように柔道も、勉強もできる。ハンデなんて負っていない」。日本視覚障害者柔道連盟の関係者から誘いを受けた時も悩んだ。
その時思い出した言葉が、高校時代の厳しい練習の中で、恩師や先輩から教わった「やれることを全力でやる」だった。「障害にも、柔道にも正面から取り組む」と誓った。
障害者柔道は、通常の柔道と違い、組み手をした状態から試合が始まる。組み合いの時間が長く、体力の消耗が激しいとされる。
昨年11月、東京で開かれた全日本視覚障害者柔道大会の100キロ級に初めて出場。初戦、北薗さんはほとんど技を出せずに敗れたが、それで闘志に火がついた。その後は果敢に攻める柔道を貫き、残りの3試合を全勝し、準優勝の成績で世界大会への出場を決めた。
練習の場は大学だが、今でも神戸を訪れて、恩師の指導を受ける。有井監督は「まじめで黙々と攻め続けるところがあいつの長所。世界の舞台でも泥臭い柔道はきっと報われるはず」と目を細める。
世界大会には約40か国から約300人が参加し、2012年のロンドンパラリンピックの出場枠を争う。
「病気で苦しい時、柔道が僕を支えてくれた。その感謝の気持ちを前面に出して、最後まで諦めずに戦い抜きたい」と力強く語った。(古市豪)
(2011年2月25日 読売新聞)